強い訴求力のあるコンセプトを持った賃貸物件は、テレビや雑誌などのメディアでよく取り上げられます。
しかし数年後、コンセプトを放棄し、普通の物件になってしまっていることが多いのはご存知でしょうか?
今回はその要因について考察していきたいと思います。
テレビや雑誌で注目されるコンセプト賃貸
誰もが気軽にプロデュースでき、簡単に脚光を
浴びられるコンセプト賃貸
コンセプト賃貸の生存率は低い?!
オーナーの意識の低さ、安易さが失敗のもと?
最低限何を知ればコンセプト賃貸づくりは失敗しないのか?
まとめ~これからはコンセプト賃貸づくりの知識・
ノウハウをしっかり学んでから取り組むべきです
> テレビや雑誌で注目されるコンセプト賃貸
テレビのバラエティー番組やワイドショーで、ユニークな賃貸住宅がよく紹介されている。
一口に「ユニーク」と言ってもさまざまだが、テレビで取り上げられるのは大きなプラスか大きなマイナス、どちらかを持つ物件である。
人気エリアにあるのに家賃がすごく安く、「えっ、どうして???」と思うのだけれど、謎解きがされると、とても狭かったり、古かったり、部屋の形が悪かったり、事故物件だったりで、「ああ、なるほどねぇ」と納得させられるというのがマイナス物件のひとつのパターン。
プラスの物件は、エッジの効いたコンセプトを持ち、ゲストで呼ばれた芸能人たちが「すごくいい! ここに住みたい!!」と口を揃えるような物件だ。
番組としてはとにかく面白いことが大事だから、普通の物件を取り上げてもしようがない。プラスかマイナスの両極端に偏るのは当然だろう。
私は、マイナス物件として取り上げられても喜んでいるオーナーさんや管理会社の精神状態はよくわからないが、プラス物件として紹介したいと取材申し込みをされたら、請けないオーナーさんはほとんどいないと思う。
そして実際のところ、ユニークなコンセプトを持った物件はとても少ないので、同じ物件が違う局、違う番組、違う時間帯などで何度も取り上げられることはよくある。
自分が企画した賃貸物件がテレビで紹介され、自身もオーナーとして出演できたら鼻が高いだろう。
SNSでPRすればたくさんの方が「いいね!」をしてくれるし、放映後、番組を観た親戚や昔の同級生などから「テレビ観たよ。すごいね!」などと連絡してくるから気分がいいに決まっている。
雑誌も同様で、一般誌、建築系の雑誌、コンセプトに合ったジャンルの専門誌などから取材申込みが寄せられ、自分の物件が大きく掲載された雑誌が書店に並ぶ。
それもまた嬉しいことに違いない。
テレビや雑誌を見た方から「入居者募集中でしたら住みたいです」という連絡が入り、成約するケースもあり、その影響力はかつてほどではないかもしれないが、まだまだ大きいと言える。
オーナーや管理会社の立場からしたら、広告宣伝費を使わず、大きく宣伝してくれるわけだからありがたい。
> 誰もが気軽にプロデュースでき、簡単に脚光を浴びられるコンセプト賃貸
ところで先ほど「ユニークなコンセプトを持った物件はとても少ないので、同じ物件が違う局、違う番組、違う時間帯などで何度も取り上げられることはよくある」と書いたが、実際、テレビ番組の制作者や雑誌の編集者は「ネタ」を探すのにとても苦労されている。
コンセプト賃貸はただでさえ少ないのに、満室中は紹介できないことが多いので、メディアの方たちは大変だ。
私のところにも、コンサルティングさせていただいたコンセプト賃貸の取材依頼がよくあるが、人気物件となるとなかなか空室にならず、なってもすぐに次の入居者が決まるので、収録のタイミングが合わないことが多い。
そんな状況だから、面白いコンセプトを持った賃貸物件をつくると、かなりの確率でテレビや雑誌で紹介していただける。
そのことに重きを置くオーナーさんばかりでないことは承知しているが、でも多額の追加コストがかからず、コンセプトをつくれるのであれば、一考する価値は十分にあるだろう。
ではどんなコンセプトを持てばメディアで取り上げられるのか?
たとえば「ペットを飼育できる物件」というだけだと、入居者募集上は効果があるが、メディアで紹介されるまでには至らない。
同じペット可物件でも、ペットの種類をちょっと変わったものにするとか、飼育できる頭数を増やすとか、附帯するサービスを楽しく充実したものにするとか、そういうアイディアが必要だ。
でもそんなアイディアは、すぐにも浮かんできそうな気がしないだろうか?
「自分は頭が固いから・・・」なんて謙遜される方もいると思うが、もし自分で浮かばなければ家族や友人・知人に相談してみたら、ポンポン出てくるだろう。
そして「これぞ!」と思うアイディアがあったら、あとは実行に移すのみ!
コンセプト賃貸はつくるだけなら、とても簡単なのである。
つくったあとは、特別にプレスリリースなど出さなくても、一生懸命情報を探しているメディアの方が探し出してくれ、あっという間にテレビや雑誌で紹介されるようになる。
> コンセプト賃貸の生存率は低い?!
しかし、ちょっと待っていただきたい。
こんな簡単にできて、メディアで取り上げられて、それを見た(読んだ)方から入居申込みが来て・・・そんなことが数多くあるのだったら、コンセプト賃貸はもっとたくさんあってもおかしくないはずだ。
むしろ普通の物件をつくるほうが変だという気がしてくる。
ではなぜコンセプト賃貸はいつまでも多くならないのだろうか?
この問いに対し、正式にリサーチしたわけではないので憶測の域を出ないものかもしれないが、私はこう考えている。
1)コンセプト賃貸として注目を浴びたものの、リーシングやマネジメントがうまくいかず、やがてそのコンセプトを放棄して、普通の物件になってしまったケースが多いのではないだろうか。
2)コンセプト賃貸で失敗した方の体験談を聞いて、トライする気持ちになれないオーナーさんが多いのではないだろうか?
こまかく言えばいくつもあるが、大別するとこのふたつになるかと思う。
そもそもコンセプト賃貸自体が、これまで多くつくられたわけではないので、その後の追跡調査もされたことがないのではないかと思うけれど、1)に該当する事例は私自身いくつも知っているし、2)のことを口にするオーナーさんもSNSなどで多数お見受けするので、さほどはずれていないはずだ。
消えてしまってはいないけれど、現在苦戦中だというオーナーさんも数人身近にいらっしゃり、私ができる助言はさせていただいているが、会ったことがない方のほうが圧倒的に多いから、たったいま、この瞬間にも挫折し、コンセプトを放棄することを決めてしまわれているかもしれない。
> オーナーの意識の低さ、安易さが失敗のもと?
コンセプトを放棄し、普通の物件になってしまう場合、その一番の理由はおそらく「入居者が決まらないこと」だと思う。
コンセプトを掲げて、それにマッチした入居者さんからの申込みを待ち焦がれているけれど、なかなか現れず、空室期間が長引いているうちに、コンセプトとは関係ない方から入居の打診がある。
はじめはお断りしていたのだが、ローンを返済しなければならないから、背に腹は変えられず、妥協していくうちに、いつの間にかそちらが多数派になってしまい、最終的にコンセプトを放棄するに至る。
そんな流れはよくあるはずだ。
もうひとつ予想されるのは、コンセプトに沿って管理を始めてみたものの、想定外のトラブルが続出し、入居者さんたちからも不満の声があがってきて、退去する方も増えてくることだ。
次第に、コンセプトそのものが悪かったのではないかと考えるようになり、我慢しきれず放棄することを決意する。
そういうこともきっと少なくないように思われる。
このとき、その“失敗”、“苦戦”の最大の要因はどこにあるのだろうか?
もちろん「不運が重なってしまってやむに已まれず」ということもあるだろうが、失礼を承知で言えば、たいがいの場合、コンセプト賃貸のプランニング、マーケットリサーチ、リーシング、マネジメントに対するオーナーの意識がそもそも低かったことが原因しているように私は考えている。
コンセプト賃貸の「光」の部分にだけ目を奪われ、安易に取り組んでみたものの、つくったあとになって「陰」の部分に直面し、不安になり、やがて絶望してしまう。
「やってみたら何とかなるだろう」、「案ずるより産むが易しだ」、「何十室もある物件をつくるんじゃないから大丈夫」などと考え、気軽にスタートした結果、高い壁にぶつかり、初めて自分が安直であったことに気づく。
厳しい現実を乗り越えるためのノウハウを伝授してくれる専門家がいればまだ救いようがあるのだけれど、出会うことなく孤独に苦悩を続けているうちに、いつか心が折れてしまう。
そんな方がきっとたくさんいるはずだ。
> 最低限何を知ればコンセプト賃貸づくりは失敗しないのか?
さて私は、挫折してしまうオーナーさんの「意識の低さ」、「安易さ」を責めるようなことを言ったが、これは少し正確ではないのではないかとも考えている。
なぜならコンセプト賃貸をつくり、貸し、管理するにあたって、その成功事例は少なく、知識やノウハウも確立されているとは言えないからだ。
知識やノウハウが確立されているのに、それを学ばずして取り組み、失敗をするのであれば、意識が低いと言われても仕方がないと思うが、それらがないのだから仕方がないと言えるかもしれない。
むしろチャレンジ精神、開拓精神を讃えるべきだ。
さまざまな困難が待ち受けていようとも、失敗を恐れず、トライする姿勢は、誰もが真似できるものではないのだから。
そして、挫折感を覚えながらも諦めることなく奮闘し続け、次第にコツをつかみ始めることができたら、きっと大きな先行者利益を得ることができると思う。
ところで、コンセプト賃貸をつくるのに、「必要な知識」、「ノウハウ」とはそもそも何なのだろうか?
その問いに私なりの答えを述べさせていただくならば、まず「必要な知識」には、「コンセプトに掲げたジャンル」と「不動産業界」に対する正確な知識・情報が挙げられる。
生半可な知識ではなく、専門家が本音で話す知識・情報である。
「コンセプトのジャンル」も「不動産業界」も、ともに入りやすい世界なので(たとえば医者や弁護士、建築士などのような専門性はさほど必要ないと思われがちだ)、ちょっとかじるとすぐわかったような気になってしまう。
しかし、オーソドックスなことをするだけであれば問題なかったとしても、変わったことに取り組もうとすると、かなり基本がしっかりしていないと対応できないというのは、どんな世界であっても変わらないのではないだろうか?
野球にたとえるなら、ピッチャーがストレートだけで一本調子で投げてくれるのであれば、そこそこ打てるようになるが、変化球や緩急の差をつけられるとバットに当てることすら難しくなる。
それなのに、コンセプト賃貸に対する知識やノウハウが不十分なまま、しかも自身が十分でないことを知らないまま、何千万円、何億円という資金を投資してしまう方があまりにも多いと私は感じている。
コンセプト賃貸は「変化球」の連続だ。
「ストレート」すなわちオーソドックスな知識やノウハウは通じないものばかりだと思う。
まずはそのことを認識するところから始めていただきたいのだ。
この認識がないままに、見よう見まねでコンセプト賃貸に取り組むと大やけどを負ってしまう。
そしてまた「数年後消えていってしまったコンセプト賃貸」が増えていく。。。
コンセプトは消えていくが、経済的損失と苦労し続けたストレスだけが残り、「二度とやるものか」と思われてしまう。
思うだけでなく、それを周囲のオーナー仲間に力説されるようになる。
これは本当に悲しく、残念なことだと思うのだ。
> まとめ~これからはコンセプト賃貸づくりの知識・ノウハウをしっかり学んでから取り組むべきです
今回のコラムのまとめです。
- エッジの効いたコンセプトを持った賃貸物件は、メディアに取り上げられ、脚光を浴びやすい。
- コンセプト賃貸は、宣伝費を支払わなくても、テレビや雑誌で紹介してくれ、それを観た(読んだ)方から内見依頼、入居申込みをしていただけることも少なくない。
- しかし残念ながら、消えていくコンセプト賃貸が多い。また失敗体験からコンセプト賃貸をつくることの愚かさを説く方もたくさんいる。
- 消えていくコンセプト賃貸は、オーナーが見よう見まねで、安易につくったものであることが多い。
- その安易さは、コンセプト賃貸をつくるのに必要な知識、ノウハウが確立されていない(と思われている)中、トライするオーナーの行動力、決断力と裏腹のものである。
- これからコンセプト賃貸をつくり、貸し、管理するならば、必要な知識、ノウハウが存在するということを理解すべき。それをしっかりと学ぶことで、過去のオーナーたちと同じ失敗を繰り返すことなく、安全に「光」を浴びていくことができる。
今回は、コンセプト賃貸の「光」と「陰」、とりわけ「陰」を産み出す元となるオーナーの根っこの問題について触れさせていただきました。
高い志と意欲を持ち、コンセプト賃貸のプロデュースに果敢に取り組もうとされるオーナーに、無駄な失敗をしていただきたくないので、少々辛口なことを言いました。
オーソドックスな物件とはプランニング、リーシング、マネジメント全ての面で違いがあるということを知っていただくところから、始めていただければ幸いです。